文:山野愛美
2019年2月28日、ブレインパッド主催の「Probance Day 2019」では、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーション実現のためBtoC向けマーケティングオートメーション「Probance(プロバンス)」を活用しているコナカ、マイナビ、九州旅客鉄道(JR九州)の3社の担当者が、導入背景や実運用で見えてきたこと、その成果について講演を行った。
レポート第二弾では、九州旅客鉄道 総合企画本部 経営企画部 グループマーケティング室 室長 相良 周平氏による「JRキューポを活用したグループCRM戦略」と題したセッションをお届けする。
JRキューポがつなぐJR九州の事業群
JR九州は鉄道以外の事業にも力を入れており、駅ビルや飲食、高速船などさまざまな事業を行っている。
鉄道の売上は全体の40%弱であり、鉄道を中心としながらもグループ全体でシナジーを上げ、総合的なまち作り企業グループとなることを目指している。
そして、事業間の連携をより促進したいという考えから、「JRキューポ」を活用したJR九州データマーケティングCRM戦略を推進していると言う。
JRキューポとは、JR九州グループが展開する以下3つのポイントサービスを統一したもので、2017年7月にスタートした。
1)鉄道チケットのインターネット予約で貯まる「eレールポイント」
2)JQ CARDで貯まる「JQポイント」
3)SUGOCAで貯まる「SUGOCAポイント」
インターネット上で手続きをすれば、上記のポイントを合算することができ、合算したポイントはさまざまなところで利用できる。
現在、JR九州のWeb会員は約220万人で、クレジットのJQ CARDは会員65万人、記名式ICカードの利用者が140万人程度だ。これらの会員をポイントでつなぐことによって共通の基盤を構築し、JR九州グループで活用する方法を模索している。
最終的には、グループ会社のさまざまな事業の顧客が、このJR九州Web会員となるよう企画している。各事業が新規顧客を獲得し、JR九州グループ全体で顧客との関係性を強化していこうという考え方だ。
実際にID統合している会員は2月末で26万超という状況。着実に伸びてきている。
データマーケティング、CRMの基盤と体制を構築
現在は、JRキューポのおまとめ登録という最初の企画が軌道に乗ってきたところであり、これから売上への貢献度を計測していくという段階だ。
2017年4~6月にプロジェクトチームがスタートしてからは、システムの開発、規約作成、スタート時のキャンペーン企画などを行った。その後、年度末くらいまでは、鉄道のインターネット列車予約システムとJQ CARD、SUGOCAの基幹システムからマーケティングに使えるデータを集め、ブレインパッドのRtoasterを活用したマーケティング基盤の構築、分析ツール連携などを進めてきた。
JR九州社内ではこのマーケティング基盤をJRキューポDMPと呼んでおり、そのDMPとマーケティングオートメーションツールのProbanceをつないでいる。
分析面についてはTableauを活用し、3サービスのご利用状況をさまざまな角度で可視化する他、おまとめ登録によるサービスを横断した分析まで挑戦している。
データからわかったことをマーケティング施策に反映
DMP上では統合顧客データ、統合実績データを管理しており、顧客起点での細かな状況分析ができるようにTableauでダッシュボードを構築した。
今までは、「切符が何枚売れた」、「どの駅とどの駅の間で何名くらいの客が乗っている」くらいしか見えていなかったが、「出発日」、「ロイヤリティの高低」、「性別」、「決済方法」などが1つの画面で俯瞰(ふかん)的に見れるようになった。
ICカードについても、「鉄道・物販・定期など何に利用されているのか」や「どのような属性なのか」、クレジットのJQ CARDは利用履歴を受け取り、DMPに格納。名寄せを行い、利用傾向が見えるようになった。
今回のデータ分析環境により、利用者のエリアや属性によってどのような特徴があるかというように顧客起点での分析レベルがかなり向上したと感じている。
MAを利用した今後の取り組み
マーケティングオートメーションツールについては、DMPからProbanceに連携して、顧客の趣味嗜好(しこう)に合った情報発信をしようとしているところだ。
Probanceは、会員にシナリオメールを送る施策などに活用している。顧客ごとのポイントの利用度合いを重要視しており、ユーザーのポイントの利用状況に応じて顧客をセグメント化し、そのセグメント別に適した内容のメールを送ることにトライしている。
ポイントの利用がない、あるいは交換頻度の低い顧客向けには、「ポイントが貯まっていませんか?」という文言をメールに入れると開封率が30~40%に上がる。全員に同一の文面で送った場合の開封率は20%程度なので、セグメント別にメールを変更する効果は大きい。
また、Web会員をグループのリアル店舗に送客する目的でProbanceと電子クーポン、電子スタンプのgifteeを連携している。
Probanceが保有する毎日の鉄道予約情報やクレジットカードの利用情報などを活用し、大分駅に行く切符を予約した方に対して、出発日前日に駅ビルの屋上温泉の割引クーポンを送り、顧客がクーポンを利用すると電子スタンプで消し込むというような施策にトライしている。
他にも電子クーポンの取り組みは各地区で進めており、洋菓子屋さんのミルフィーユのサンプルを2個プレゼントでもらえたり、駅ビルの観覧車に100円で乗れたり、フランチャイズのコーヒークーポンをもらえたりという施策を行っている。メールの開封率は40%弱程度で、来店率はうまくいけば10%程度になる。時間のかかる温泉などよりもお土産屋さんなどの手軽なクーポンの方が相性が良いというようなことがわかってきている。
以上のように、Tableauでデータを可視化し、ブレインパッドなど外部のパートナーと共にデータ分析をしながら、その分析結果に基づいてRtoasterやProbanceなどで施策を打つ。そして、その結果を次のマーケティング施策に活かすというPDCAサイクルを回している。
Web会員を活用した新サービス
Web会員を活用した新しいサービスも考案している。その中の1つがポイントアップモールだ。カード会社や広告会社でよくある企画だが、顧客へのキューポ流通量の拡大、ポイントアップモール経由のクレジットカード売上増加、ポイントアップモールの収入、JRグループで運営しているECサイトへの送客などを狙いとしている。
Web会員がポイントアップモールを通じて楽天やじゃらんなどで買い物をすると、各プラットフォームのポイントに加え、JRキューポも貯まるようになっている。ポイントアップモールは、ウェブ上の広告ビジネスのような位置付けと言えるが、広告自体の利益だけでなく、ポイントアップモールで買い物をした顧客のデータがDMPに貯まるので、それらのデータを今後の分析に活用しようと考えている。
次のステップは、オムニチャネル化とグループ展開
さらに、これまで以上に顧客理解が深まるアウトプットを出すために、機械学習を用いたテストを開始している。ブレインパッドとの取り組みでは、優良顧客が何を要因に優良化しているのかを探し出し、それに近しい人をクラスタリングしてアプローチするとどのような反応があるかなどを試している。
また、鉄道と駅ビルを両方利用する顧客を増やすために、「キャンペーン期間中に鉄道と駅ビルを両方利用してもらったらインセンティブが付きますよ」というような取り組みも進めている。
このプロジェクト全体としては、第1ステップでJRキューポを確立し、第2ステップでは、JRキューポを活用したグループマーケティング推進により、鉄道とグループ会社をつなぐ送客に取り組んでいる。鉄道の利用顧客を増やし、グループ間の顧客のつながりを増やし、加速させていく計画だ。
インタビューやアンケート結果を男女別に見ると、女性の方がポイントに関心を持っており、貯まったポイントでちょっとぜいたくをするなどポイントの利用傾向がわかってきて興味深い。男性では航空会社のマイルでポイントを貯めている方が多いが、あわせてサービス自体の利便性も重視されている。
また、JR九州グループの各社では、クレジットカードだけではなく現金決済の顧客も多い。世の中はキャッシュレス化に向かっているが、現金と併せて使う人がまだまだ多い点は注視する必要がある。
このような洞察をふまえ、より顧客とのつながり、関係性を強化していきたい、と思いを語った。
記事執筆者プロフィール
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山野 愛美(Ami Yamano) コンサルティングファームでIT・業務、経営戦略のプロジェクトを幅広く歴任した後、事業会社でWebサービスのプロデューサー職として事業の立ち上げを担当。その後に独立し、現在はデジタルマーケティング領域などでコンサルティングやライティングの仕事を行っている。 |