寄稿:adjust カントリーマネージャー佐々 直紀

【寄稿記事】

モバイルマーケティング市場は年々拡大傾向にあるが、2019年は、世界でのモバイル広告に対する支出総額が2,323億4,000万ドル(2019年1月15日のレートで約25兆2065億円)に達すると予想されている。実に、世界の広告総費用の1/3以上がモバイルに向けられることになる。

しかし、自社のマーケティング施策に使われた広告費が、新規ユーザ獲得のために本当に効果的だったのか、あるいは無駄にしただけだったのかを把握していない担当者が多いのも事実だ。広告を経由していないユーザに対しても、広告費を支払っている可能性がある。

アプリ企業やマーケターが注いだ努力や予算が、実際にどの程度利益の増加に影響したのかを分析することは非常に重要だ。獲得済みのユーザに対して広告費を出費してしまうのを回避するために、マーケティング担当者はデータを厳しく検証しなければならない。それを可能とする分析方法の1つがインクリメンタリティ(純増効果)テストだ。

すべてはK-Factorに帰結

例えば、1日あたり2,000の新規オーガニックユーザを獲得するアプリがあると想定しよう。さらに、1日あたりのインストールユーザを200増やすために、有料広告を利用したとする。マーケターがそのアプリキャンペーンを実施し、新規で200ユーザを追加獲得することができれば、目標とするコンバージョン数は達成できたので、そのキャンペーンは一見成功したかのように見える。

しかしここで分析を止めてしまうと、自分でアプリを見つけたユーザが存在しないと仮定することになる。このような見落としを避けるために、キャンペーンがオーガニック経由のユーザに与えた影響を分析する必要がある。キャンペーンが行われた期間中に、オーガニック経由のユーザ数が変化なく一定であれば、広告経由のインストールがオーガニックインストールに与える影響の評価基準であるK-Factorがプラスの結果を示し、よって成功したと言える。しかしその数値が低下したら、キャンペーンがオーガニック流入と「競合」する状態(カニバリゼーション)が生まれた可能性があると考えられる。さらに悪いことに、これら200の新規ユーザのどれだけが、コンバージョンしたかを知ることもできない。

これはシンプルなインクリメンタリティ(純増効果)テストの一例だが、これを元に実施できる分析方法が数多くある。例えばアプリ企業は、標準的なオーガニックアクティビティがどこで実施されているかを調査し、広告におけるK-Factorが地域によってどう異なるかを確認することができる。もしかしたら、日本のユーザは有料広告だけに反応し、米国のユーザは、自分でアプリにアクセスする傾向があるかもしれない。企業によって手法は異なるが、インクリメンタリティを分析するには綿密な計画が必要だ。

理論から実践へ

アプリパブリッシャーにこの課題の重要性を理解してもらうためには、まずは自社のオーガニックユーザについて知ってもらうことをおすすめしたい。マーケティングの効果を把握するためには、まず、マーケティング活動をまったく行わなかった場合、数値にどのような変化があるかを知らなければならない。担当者によっては、アプリストアにアプリがリリースされたタイミングで大規模なキャンペーンを実施し、アプリローンチのプロモーションに拍車をかけようと意気込んでしまいがちだ。しかしそこでキャンペーンをいったん整理し、オーガニックなアクティビティもできるだけ把握しておくことも検討してみてもらいたい。オーガニックの流入は時間とともに変化するため、最新の算定結果を維持できるよう数ヶ月に1度は確認を行うことをおすすめする。

企業はインストール数を過度に重要視すべきではない。ダッシュボードに表示されたインストール数だけで評価せず、オーガニック経由の基準値と比較して、どれだけのインストールが追加されたかを把握しよう。この分析を行うと、チャネルやクリエイティブ、オーディエンスセグメントを最適化する際に、より具体的な情報を元にして意思決定をすることができる。

アプリマーケターが何よりも数値の高さにこだわってしまうと、ユーザ獲得の担当者に、自然流入ユーザの「カニバリゼーション」現象が存在することを認識する機会を与えない。ユーザを獲得することと、オーガニックの基準値を維持することの両者のバランスが取れるよう、チーム戦略を策定することが大切だ。それこそが投資を無駄にすることなく、より大きなリターンを得るための確実な方法なのではないかと思う。

インクリメンタリティテストを成功させるための基本は、ユーザに対しどれぐらいの広告費が支払われたかを分析することだ。オーガニック流入を有料チャネルの分析に混ぜてしまったら、このベンチマークを把握することはできない。ユーザの理解とそれに応じた戦略を見直すことができれば、既に獲得済みのユーザに対する不要な広告費出費を回避できるようになるのだ。

 

記事執筆者プロフィール

佐々 直紀(Naoki Sassa)

佐々 直紀(Naoki Sassa)

Adjust カントリーマネージャー。1974年生まれ。2000年4月からデジタルマーケティングに携わり、AE、AM、マーケティング業務を経験。2016年1月からTUNEの日本法人の立ち上げメンバーとして、本格的にアプリ計測分野に参入、2016年11月よりAdjustに参画。数々のスタートアップの立ち上げから軌道に乗せた経験を生かし、カントリーマネージャーとしてAdjustの日本オフィスを統括している。