文:山野愛美

2019年2月28日、ブレインパッド主催の「Probance Day 2019」では、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーション実現のためBtoC向けマーケティングオートメーション「Probance(プロバンス)」を活用しているコナカ、マイナビ、九州旅客鉄道(JR九州)の3社の担当者が、導入背景や実運用で見えてきたこと、その成果について講演を行った。

レポート第3弾では、マイナビ 転職情報事業本部の寺下 知哉氏による「MAツールの意外な落とし穴」と題したセッションをお届けする。

MAツールの意外な落とし穴

数年におよぶユーザーとのコミュニケーションとKPIの設計

マイナビでは約5年前にMAのProbanceを導入。ある程度の施策をやりきってMA導入の効果を得た現在は、小さな改善はしているもののなかなか大きな効果が出づらいという状況にある。セッションでは「MAツールの意外な落とし穴」が紹介された。

マイナビ転職のビジネスモデルは、中途社員を採用したい企業から情報掲載料を得て、その求人情報をユーザーに届けるというものだ。ユーザーはマイナビ転職を通じて企業に応募し、その後は企業とユーザーが直接やりとりをすることになる。
転職情報事業本部では、ユーザーのサイト内での行動から態度変容を読み解いて必要なサポートを行っており、緻密なパーソナライズが必要となるため、MAを導入しているという背景がある。

現在、MA関連領域ではアプリのプッシュ通知などProbance以外にも複数の機能を併用している。

マイナビがユーザーとコミュニケーションを取らなければならない期間は数年間にわたる。
インターネットで平均転職活動期間を検索すると「3ヶ月間」と出てくることがあるが、実際は、転職しようかどうしようかと悩み始めて会員登録したところから実際の転職まで1年から数年間かかることが普通である。そのため、数年間、ユーザーとコミュニケーションを行う前提でMAを設計・運営しているのだ。

CRMチームの主な指標は、日々実施しているABテストの開封率やクリック率、コンバージョン率に関する情報だけでなく、その成果が事業にとってどれくらい貢献しているかを指標としている。
実際のデータを公表するのは難しいとのことで、Similar Webでの分析結果として、月間訪問数約770万、スマホ比率66.7%、直帰率46.9%という数字が示された。が、これに対してCRM施策がどれくらい貢献しているかを、自動レポート化しているという。

Probanceを活用したメールのトリガー配信で、応募数の昨対比160%を達成

ユーザーとのコミュニケーションツールは、メール、アプリ、LINE、チャットの4つで、LINEとチャットについては、現在テスト中だ。

各ツールの紹介
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メールは、休眠会員を含めて全員に配信するメール(バルク配信)と、アクティブ会員に限定して、ユーザーの行動起点に合わせたサポートをするメール(トリガー配信)の2種類があり、このトリガー配信にProbanceを活用している。

トリガー配信は、具体的には、以下のような施策を展開している。

  • 「会員に興味がある企業を紹介」:企業が会員情報を見てスカウトメールを配信できる機能。未読のユーザーには、翌日の午前にメールを追送。
  • 「閲覧履歴の再プッシュ」:最後に見た求人情報を「応募してみませんか?」と翌日にアナウンスするメールを配信。閲覧した求人情報がメールに挿し込まれ、サイトに遷移せずとも情報が得られる。
  • 「機能未使用者への機能説明」:会員登録時に「スカウトONにしますか?」とユーザーに確認を取っているが、転職活動自体は隠れて実施したいという意図でOFFにする方も多い。会員登録をした2日後、スカウトOFFの状態のユーザーに対して、転職活動に取り組んでいることを勤務先に知られない機能があることを知らせ、スカウトONを促すようメールを配信。

2014年にProbanceを導入後、寺下氏が着任するまでの間、導入担当者の異動もあり、Probanceは十分には活用されていなかった状態だったと言う。

2014年段階では、スマートフォンと並行してフィーチャーフォンでメールを受信しているユーザーも結構いたが、フィーチャーフォンではHTMLメールが意図通りに表示されないことがあるという理由から、スマートフォンを含めメール配信に着手できずにいた。
寺下氏が着任後すぐに、スマートフォンへのメール配信を実施したところ、当然のように200%以上の改善効果が出た。

次に、求人情報に対して「気になる」を押した方へのトリガー配信メールの改善施策を進めた。
具体的には、以下のようなものだ。

  • 配信対象の細分化:ユーザーを応募数と履歴書完成度で分解しグループに分け、履歴書完成度50%以上と50%未満で異なる内容のメールを送付
  • 配信タイミングの短縮:開封率の増加を狙った、メール配信スパンの短縮
事例1:「誰に」を改善
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事例1:「いつ」を改善
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その結果、応募数の昨対比は160%となった。

2017年8月には、バルク配信のメルマガについても、

  • メール内容の変更
  • ROI改善のため、メール配信先をアクティブ会員のみに絞り込み

といった施策を実施した。

予期せぬ事態の発生と、複数チャネルでのアプローチへの方向転換

一方で、アプリについては、予期せぬ事態が起こった。
マイナビ転職のアプリは2018年6月にネイティブ化する方向でリニューアルを行ったが、アプリ内の情報すべてがMAにフィードされるようにはなっていなかった。
結果、ユーザーの貴重な行動がアプリ内にとどまってしまい、MAに連携されないという事態になっている。
アプリが成長するほどMAの精度が悪くなる、ユーザーがアプリに依存するほどメルマガを開封しなくなるという2点が、現在抱えている課題だ。

当初は、メールを中心として、求められているコンテンツを絶妙なタイミングで配信しようと設計していたが、現在では、LINE、アプリ、チャット、メルマガと4つのチャネルで施策を展開している。さまざまな切り口でユーザーとつながり、ツールによって色を出してコンテンツを届けようという方向に転換したわけだ。
結果的にメールのポジションは低くなったものの、ユーザー数は昨対比160%と増えているので、他の施策との兼ね合いやMAの活用方法も含め、引き続き検討を重ねていきたいと講演を締めくくった。

 

記事執筆者プロフィール

山野 愛美(Ami Yamano)

コンサルティングファームでIT・業務、経営戦略のプロジェクトを幅広く歴任した後、事業会社でWebサービスのプロデューサー職として事業の立ち上げを担当。その後に独立し、現在はデジタルマーケティング領域などでコンサルティングやライティングの仕事を行っている。