離脱の激しいアプリの厳しさ

――「Adjust Global App Trends 2019」レポート

2019/06/07
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文:大下文輔

Adjust社はドイツに本拠を置くモバイル広告効果の計測やアドフラウド防止のソリューションを提供する企業で、本社設立は2012年、日本での活動は2014年11月からである。

2019年5月23日、本社のCEOを含む幹部社員が来日し、同社の主なツールの概要とともに世界のモバイル市場を調査・分析したレポート(Adjust Global App Trends 2019)の内容を一部説明した。
本稿では発表されたレポート内容に解説と考察を加えて紹介する。

左から ポール・H・ミュラー氏(Adjust社CEO兼共同創業者)、クリスチャン・ヘンシェル氏(Adjust社代表取締役兼共同創業者)、ヤロン・オリカー氏(Unbotify社CEO兼共同創業者)、アンドレイ・カザコフ氏(Acquired.io社CEO兼共同創業者)

左から ポール・H・ミュラー氏(Adjust社CEO兼共同創業者)、クリスチャン・ヘンシェル氏(Adjust社代表取締役兼共同創業者)、ヤロン・オリカー氏(Unbotify社CEO兼共同創業者)、アンドレイ・カザコフ氏(Acquired.io社CEO兼共同創業者)

成長率で見ると、日本は低いグループに属する

Adjustが集約した2018年の上位1,000のアプリから得た匿名データを基に調査が行われ、その総ダウンロード数は1,940億件を超え、収益は1,010億円に達した。

Global App Trendsのレポートでは、今年から成長指標(Growth Index)を加えて分析を行っている。

アプリの成長指標は、1ヶ月あたりのアプリダウンロード数を国別のMAU(月間アクティブユーザ数)で割って算出される(決済アプリとユーティリティのツール系アプリは対象外)。すなわち、この成長スコアは国別の指標となる。計算上、1人あたり月間アプリダウンロード数と同じである。

全てのカテゴリーをくくった総ダウンロード数を国別MAUで割ったもので比較すると、成長率の高い国はインドネシア(スコア17.6)、ブラジル(9.4)、韓国(9.1)、マレーシア(8.2)であった。アメリカを含む西欧諸国は総じて低い(2.9~3.8)。中国は5.7と中間的な値をとった。
そして日本は2.1と対象国(全15カ国)中最下位である。成長率が低い、あるいは市場が不活発とも解釈されるし、プレイヤーが淘汰(とうた)され、成熟しているとも考えられる。最近ではモバイルユーザに占める高齢者の割合が増えていることなども影響しているのかもしれない。

8割が1週間後に離脱

アプリは気軽にダウンロードされる。そしてなかなか定着しないことが、この調査でも明らかになった。インストール後1日の継続率はグローバル平均で31%。すなわち、ダウンロードされたアプリが翌日まで生き残る可能性があるのはおよそ3分の1にとどまるということである。そして、7日後になると21%にまで低下する。

このことは、アプリがダウンロードされたとしても、それが利用されることがいかに困難かを物語る。その困難さを前提として、アプリは、コンテンツ内容の魅力、ユーザインターフェースなどの使い勝手、それらを総合したユーザエクスペリエンスの全てのレイヤーにおいて、注意深く企画され、運用されるべきものであることを示唆している。ユーザエクスペリエンスの競争時代になっている、ということがここでも例証される。

継続率(または離脱率)は、カテゴリーによるバラツキがある。図1に示したのは日本におけるモバイルアプリのカテゴリー別継続率である。いったんダウンロードされると継続して使い続けられる可能性が高いのはソーシャルネットワークであるし、継続されにくいのが旅行予約、あるいはショッピングサイトなどである。
とりわけフードデリバリーでは30日後の継続率は5%にも満たない。これは、ユーザが「解決したい問題」とアプリの関係の表れであるように思われる。パーティなどで出前、ケータリングサービスが必要になったときに利用し、その機会が1ヶ月間のうちに再び起こらなければ集計上継続なしとしてカウントされる。

カテゴリー別の継続率はベンチマークとして利用可能であり、自社アプリの評価指標を定めるときの参考になりうる。

図1. 日本におけるカテゴリー別継続率

図1. 日本におけるカテゴリー別継続率
(※画像クリックで拡大)

ゲームマシン化が進行するモバイル

日本における時間帯毎のアプリ使用状況が図2に記されている。これは2018年夏季3ヶ月間の平日(月曜日から金曜日まで)にアプリを使用した時間帯毎の平均値を表している。

図2. 日本における時間帯毎のアプリ使用状況

図2. 日本における時間帯毎のアプリ使用状況
(※画像クリックで拡大)

この図を見ると、ニュースアプリは予想に違わず通勤時間帯の7時台と18時台、そして昼休みの12時によく使われている。

また、健康関連のアプリが23-24時から朝にかけて増加しているのも世界的な傾向と変わらない。これは、スリープトラッカーと呼ばれる睡眠のモニターソフトの普及が原因だとのこと。

日本と世界を比べると、カテゴリー毎の使用時間帯はおおむね似ているが、違うのはカテゴリーの使用比率である。日本の場合、漫画の占める割合が低く、ゲームの割合が高い。ゲームはスポーツゲームも合わせると、トータルで50%近くをキープしており、グローバルデータよりもまた、同じゲームでもカジュアルゲームよりも、ミッド・コアのゲーム、スポーツゲームの比率が高くなっている。

カジュアルゲームとは、1回のターンが短いパズル系のものを指す。ゲーム内課金もあるが、主として広告による収益が主体である。
ミッド・コアゲームはルールが極めて簡単なパズル系のものではなく、RPGその他のゲームを含む。おおむね日本の場合、ガシャ(ガチャ)によるプチギャンブル的なものが普及しており、ビジネス規模も大きい。

また、Adjustの説明によると、日本の特異的なこととして、男女比率がほぼ同じことが挙げられるそうだ。たしかに、通勤電車の中では男女を問わず、そして年齢にかかわらずゲームをしている人は多い。

ミッド・コアゲームのアプリは世界的に今最も成長著しい分野だ。2018年はPUBGのようなバトルロワイヤルゲームが流行し、MOBA(マルチプレーヤーオンラインバトルアリーナ)ゲームもまた増えている。これらはPCや据え置き型のゲーム機でもよく遊ばれており、e-Sportsの対象となるゲームがスマホゲーム化されたものもある。スマートフォンのハードウェア性能とUIデザインなどの進化により、今後ますますスマートフォンのゲーム利用が進むものと思われる。

お金の動くところに不正あり

App Trendsのレポートの目的の1つは同社がソリューションを提供しているアドフラウドや、ボットを使ったアプリ内不正などを警告することにあると思われる。広告主は広告が不正に搾取されるだろうし、ゲームのサービス提供者は収益に対する被害にあう。

ゲームについていえば、チートと呼ばれる不正があり、それらをビジネスとして客を募ったりする。ゲーム結果のランクを上げたい個人からお金を取って、例えばガチャではなかなか出ないレアアイテムを一定の価格で販売したりする。ビジネスはジャンルにかかわらず、パレートの法則が当てはまり、一部のロイヤルカスタマーが売上のかなりの割合を作っている。ゲームも同様に一部のカスタマーが高額の資金を投入する傾向にあり、彼らのことを英語で「Big Whale」というそうだ。

アドフラウドは、広告主への損害を与えるが、エンドユーザのエクスペリエンスには直接の影響を与えない。しかし、アプリ内不正は、そういうインチキがあるということを正直なユーザが知ることにより、ユーザエクスペリエンスに影響を及ぼし、アプリのビジネスそのものに打撃を与える。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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