Googleが無料で提供するUX体験向上のための知識

――「Advertising Week Asia 2019」レポート(前編)

2019/06/14
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文:大下文輔

Advertising Week Asiaは、広告、マーケティング、ブランディング、テクノロジーなどのプロフェッショナルのためのイベントで、年1回行われている。2019年も5月27日から4日間東京で開催され、1万3000人超の来場者があった。その中の講演から本稿とリクルート社の事例(後編)の2つをレポートする。

ここで紹介するセッションは、アクセンチュアとGoogleが合同で調査を行った結果にもとづき、モバイルの体験向上をいかにビジネスの成果につなげていくかを主題としたものだ。

サービスの環境変化にともないモバイルの重要性が増した

最初に登壇したアクセンチュアの浦辺佳典氏は、サービスそのものの概念が大きく変化していることを指摘した。

アクセンチュア 渡辺佳典氏

アクセンチュア 渡辺佳典氏

スマートウォッチやボイスアシスタント、モバイルによる各種決済などのIoTの力を支えとして、無人の店舗や食事の宅配サービス、ヘルスケアサービス等続々と新しいサービスが生まれてきている。
それらは、以前のような生活者が相手の都合に合わせて動いていくものから、生活者を中心に各種のサービスが再構築されるという大きな流れにある。
そこにおいてモバイルは、単なるチャネルとしてではなく、サービスそのもの、あるいはサービスに密着した形で存在しており、その重要度はますます増している。

79%が購入前にモバイルでリサーチするなど、生活者の購入決定にモバイルは大きな影響を及ぼしている。また、モバイルでネガティブな体験をしたユーザの62%は、そのブランドで将来購入する可能性が低くなるという調査結果もある。

ビジネスの効果を倍増するといった課題に、モバイルのUXは深く関わっているという認識をアクセンチュアは持っている。そこで最高のモバイルユーザ体験の構築にむけ、Googleの調査を支援した。

UXの総合指標と主要な5項目

次いで登壇したGoogleの神谷俊昭氏は調査にもとづく、モバイルUX向上のためのアセットについて解説した。

Google 神谷俊昭氏

Google 神谷俊昭氏

ユーザエクスペリエンスが重要であることを端的に示すものとして、「読み込みが3秒を超えるサイトからはユーザの53%が去ってしまう」あるいは「54%のユーザが使い勝手の悪いサイト(手続きの多いサイト)から良いサイト(手続きの少ないのサイト)に移ってしまう」というデータがある。
こうしたことが重要であり、投資が必要と理解したとしても、スピードや手数をどこまで詰めれば良いのかわからず、アクションが起こせずにいるという声も聞こえてくる。
そこで、そうした判断にも役立てるべく、アクセンチュアインタラクティブの協力を得て大規模なユーザエクスペリエンス調査を企画・実施した。

具体的には、半年間かけて、トラフィックの多い日本を含むアジア15カ国の旅行系、EC、金融系、人材系合わせて700以上のWebサイトのユーザビリティを丹念に見ていった。
使用したフレームワークは、Googleが作った、「UXベストプラクティスガイドライン」を当てはめた。項目は、ファインダビリティ、商品ページ、登録および購入、モバイルデザイン、スピードの5つである。

同じカテゴリーに属する企業サイトのうち、ベストの企業の最高スコアを100(%)としたとき、当該企業のスコアがどうなっているのかを項目ごとに見ると同時に、その算術平均をモバイルUXスコアという総合指標にする。各指標とも80%を推奨スコアとしている。推奨スコアとは、その値を超えれば、コンバージョンレートに大きく影響が及ばない、閾値とみなせるものである。

図1. モバイルUXスコアの表示例

図1. モバイルUXスコアの表示例
(※画像クリックで拡大)

この指標を使ってわかった最も大きな発見事項は、モバイルUXにおいて、非常にスコアの高かったグループのコンバージョンレートは、低かったグループのコンバージョンレートと比べておよそ2倍の隔たりがあることである。
5つの項目は1つではインパクトが小さいかもしれないが、それらが総合されることでビジネス上のインパクトが倍になるということが事実として確認された。

良いUXを提供できている企業とそうでない企業の差が拡大しているというのが実情である。

自社のモバイル環境のどこが良く、どこに改善の余地があるかが、この5つの指標を測定することで得られる。「改善の余地がある部分」をダメなところとして位置づけるよりは、それを「伸びしろ」と前向きに捉えて取り組むべき、というのが神谷氏の指摘である。

日本のサイトは全体としてスピードの項目が低く、国別で見たときに、調査対象の15カ国中最低となっている。
都市部の環境の良いところではあまり問題を感じなくとも、人混みの多いところや移動中で3G利用を余儀なくされるなど、スピードが遅いと離脱が進む一方、サイト圧縮、サーバ応答時間、ブラウザへコンテンツをキャッシュすることなどによりスピードを上げることで、ビジネスの改善につながる。
実際に求人サイトのコンテンツの初期表示速度を70%改善したら、応募率が14%改善したという事例(バイトル)がある。

モバイルUX向上のためのアクション

モバイルWebやアプリのUXをどう改善するかについては大きく言って2点ある。
1点目は、先に挙げたUXのベンチマークを行うとともにUXのナレッジを活用すること。
2点目は、AMP(Accelerated Mobile Page)およびPWA(Progressive Web Apps)というテクノロジーの活用による表示の高速化である。それら2点の先に機械学習の活用がある、と考えるべきだろう。

図2.モバイルUX向上のためのアクション

図2.モバイルUX向上のためのアクション
(※画像クリックで拡大)

先のUXスコア指標について、自社のサイトのどこを優先的に改善すべきか、どのようにテストしたら良いか、実際にどの程度コンバージョンレートが改善されたかを教えてくれる、あるいは、優れたサイトの事例紹介などを行っているのがmasterful mobileである(日本語版は準備中)。

スピードに関して、自社サイトの調べたいページのURLを入力すると、表示速度(秒数)を測定し、どこを改善したら良いかのレポートをまとめてくれるサイトが testmysiteだ。
testmysiteでは、来訪者の獲得単価などを入力すると、現在の表示速度から改善すると(例えば2.9秒から2.1秒へ)どのくらいのレベニューインパクトがあるかを試算し、金額として提示してくれる。

こうしたナレッジを総合的に発信しているのがthinkwithgoogle日本だ。

モバイルUX向上のためのスピードアップテクノロジー

モバイルUXの向上はWebに限らずモバイルアプリケーションにおいても重要である。モバイルコマースとアプリの収益比はそれぞれ46%と54%と拮抗(きっこう)している。Webはアプリに比べてリーチが広いのが特徴だが、表示速度、エンゲージメント、使い勝手という点ではアプリに劣る。アプリは逆に表示速度、エンゲージメント、使い勝手に勝るが、リーチがWebに劣る。すなわち、Webとアプリでの長所短所はちょうど逆転している。
したがって、ビジネスはWebとAppのどちらか一方でなく、両者に投資して補完的な関係を利用することをGoogleとして勧めたい、と神谷氏は主張する。AMPとPWAを総称してモダンWebという。

AMPでは、表示を1秒以下に設定しているために、AMPを使ったサイトでは表示が1秒以上かかることはない。表示高速化のために、リクエストの瞬間に物理的に近いサーバから配信し、JavaScriptのような重い記述を使わないでリッチなコンテンツを出す工夫がなされている。メディア系で使われることが多かったが、最近ではECサイトでも使われ始めている。

PWAは単一の機能ではなく、例えば、オフラインで使えるようにするとか、トップページを表示しているときに仮想のページを読み込む技術だとか、アイコン自体を置く技術などさまざまなものを含み、取捨選択して使う。

Googleは、ナレッジ活用とモダンWeb技術を活用したサイトやアプリの開発を通じて、エンドユーザのUX向上のエコシステムを作りたいと考え、データベースの公開やテクノロジー普及の活動を続けている。

経営への取り組み

神谷氏の話を受けて再び登壇した浦辺氏は、Googleの調査から見えてきたベストプラクティスを提供している企業の特徴として、モバイルUXの向上を企業のミッションと位置づけ、KPIを設定して管理していること、そのための責任者・専門部署を置いていること、また全社的に部門を超えた連携を行っていることの3点を挙げた。

そして、モバイルはますますビジネスで重要になっていること、UX調査によって改善すべきポイントが具体化されたこと、モバイルUXのためのアセットも用意されていること、モバイルUXの向上を経営としてどう向き合うかがこの先のビジネスの成否に大きく影響する、というポイントを指摘してまとめとした。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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