ZOZO事例:理想の姿を起点としたサービス開発

――「Voice UI Show ~2019 Spring~」レポート

2019/06/21
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文:大下文輔

これからのコンピューティングは、エージェント(アシスタント)機能が主軸になるということが言われ始めたのが1980年代だった。そのころに作られたアップル社のコンセプトビデオを今見ると、取り立てて驚くようなことはないが、当時はインターネットも普及前で、スマートフォンもなく、一般には夢物語のように受け止められていた。とりわけ、キーボードなしのコンピューティングが斬新で、音声による入力と応答の実現は難しいと考えられていた。

音声によるさまざまな可能性が一挙に身近になったのがAmazon Echoの登場である。Echoに搭載されていたAlexaは、APIやSDKの公開で、音声認識プラットフォームとしての活用が進んでいる。

Amazon社がスキル内課金を発表し、新たな節目を迎えた2019年5月31日、VUI(音声ユーザーインターフェイス)関連の9社が合同で、Voice UI Showを開催した。

そのプレゼンテーションの中から、音声によるファッションコーディネートアプリへの応用例を紹介する。スピーカーはZOZOテクノロジーズの中村友香氏。R&D部門でプロジェクトマネージャーとしてデザイナーとエンジニアを含む3人のコアメンバーによるスモールグループで取り組んでいる。

ZOZOテクノロジーズ 中村友香氏

ZOZOテクノロジーズ 中村友香氏

コーディネーションを声で相談する新しいサービス

ZOZOテクノロジーズは、ファッションのECサービスZOZOTOWNを運営するZOZOのグループ会社で、新規事業やデザイン、開発などを行う企業。音声による新しいスキル「コーデ相談 by WEAR」を2019年5月23日にリリースした。
WEARは、ZOZOのサービスの1つで、コーディネートを投稿したり閲覧したりすることができるアプリ・Webサイト。投稿された写真からZOZOTOWNでの購入も可能になっている。

「コーデ相談 by WEAR」は、一言で言うと、コーディネート画像を音声検索によって探すスキルでありサービスでもある。既に登録されている800万のストックの中から、自分の必要とするもの、身につけたいもののコーディネーションを見つける。

新しく買った服をどう着こなし、着回すかとか、趣味に合ったファッションアイテムの組み合わせを探るとか、どんなファッションアイテムを取り入れていくか、などのニーズに応えるサービスだ。

お気に入りのコーデを検索したり保存したりする行動データから、個人の好みを学習し、レコメンデーションの精度を上げる、また検索・相談・利用の度合いに応じて、音声の応答パターンがフォーマルな距離感のあるものから、友達口調に変わっていくという変化も織り込まれている。

スキル開発の5ステップ

以下、中村氏の話をダイジェストしてお伝えする。

「コーデ相談 by WEAR」は、2018年5月中旬に開発をスタートさせた。Amazon Echoが日本の市場に投入されてから約半年後のことであったが、当時はまだディスプレイ付きのEcho Showが発売されておらず、音声UIで、ファッションの課題を解決しよう、ということだけが決まっていた。

開発は、5つのステップを踏んでいった。順を追って説明する。

ステップ1. 音声UI x ファッションの最高体験を定義した
まず着手したのは、今できるかどうかにとらわれず、音声UIとファッションの組み合わせがどうあるべきかを考えた。
例えば「今日、何着ていけばいいかな?」と尋ねたら「今日はプレゼンがあるから、大人っぽく見えるこんなコーデはいかがでしょう。暑くなりそうなので半袖でも大丈夫」などと答えてくれる、といったようなことを想定した。
ただ、実現するには「手持ちの服」「スケジュール」「天気」など、さまざまな参照データが必要となり、実現は難しい。そこでいったんこの理想を将来的な実現イメージとして掲げた上で、次のステップに進んだ。

ステップ2.音声UIの課題を洗い出し、ユーザーの声を聞いた (調査)

今の音声UIでできること、実現していることを調べた。音声設計ガイドを読み込み、海外の最新事例を集めるなどして、解決できそうな課題を洗い出した。
ただし、これでは顧客無視の一方通行になってしまうので、ファッションやコーデについての困りごとをユーザーにヒアリングし、ペルソナとしてまとめた。

ステップ3.課題とペルソナを掛け合わせ、サービスの種を探った
調査によって洗い出した「解決可能な課題」と「課題を抱えるユーザーのペルソナ」を掛け合わせて、どんなサービスにすべきかを検討した。

ステップ4.「サービス価値」を検証するプロトタイプを作った
どんなサービスを体現するか、について、4つのプロトタイプを作って検証した。

A) 服の組み合わせのアイデアを音声で伝えるもの
まずは、音声サービスの感覚をつかむことと、音声だけでファッションの課題が解決できるかどうか、Echoを使って試作したが、「服の組み合わせ」を音声だけでイメージしにくいことが改めて確認された。

B) 服の組み合わせを画像でスマートフォンに送りプッシュ通知で知らせるもの
Echoとスマートフォンの連携でコーデを表示させ、便利かどうかを確認した。結果として、便利ではあるけれどもスマートフォンを探すのが面倒だという学びを得た。

C) 今日の天気に最適な服装を教えてくれるもの
コーデにはビジュアル表現が不可欠だが、スマートフォンをいちいち用意するのは面倒ということから、エンジニアに無理を言って、タブレットを利用し、Echoと組み合わせた疑似スマートディスプレイを試作してもらった。そこでのサービス内容として、今日の天気に合わせてコーデをおすすめしてもらえるのは便利であろうという仮説のもとに、プロトタイプを作った。
しかしながら、手持ちの服でコーデを推薦できないため、服の組み合わせを考える手間を省くことにはつながらなかった。また、天候は日替わりとは言え、服にとっては季節の変化の方が重要で、あまり代わり映えせず、習慣化してもらえそうにないことがわかった。

D) 手持ちのアイテムを伝えると、そのコーデがわかるもの
以上の3つのプロトタイプの学びを踏まえ、手持ちのアイテム(を含んだコーデ)が閲覧できると、朝の服選びの課題解決につながるかを、疑似スマートディスプレイを使って検証した。結果は、1つのアイテムを伝えるだけなら気軽に行える上、手持ちアイテムのため、再現性の高いコーデを見つけやすいことがわかった。これにより、具体的なサービスの方向性が固まった。

ステップ5.リリースに向けてサービスを磨き込んだ
プロトタイプ作成の段階を経て、サービスを磨き込んでいくステップに進んだ。ここでは、今Echo Showなどのディスプレイ付きのスマートスピーカーを持っていない人の将来利用に備えて、デバイスなしでもわかるような動画やランディングページを作ったり、チュートリアルの会話の作り込みをしたり、毎日使いたくなる仕組みとして、使用頻度に応じた「仲良し度」を設定することなどによる改善を加えていった。

リリース後の分析

もちろん、リリースしっぱなしにしないことは心がけている。分析を行い、社内に知見を蓄積するようにしている。具体的にはKPIツリーに沿った効果指標の管理や、ファネル分析を通じてどこでチャーン(離脱)が発生しているかなどを管理している(図1)。

図1.リリース後の分析

図1.リリース後の分析
(※画像クリックで拡大)

こうした分析を日々繰り返して改良を加えながら、開発のステップ1で示した、「音声×UIの最高体験」につなげることを目指している。

 

記事執筆者プロフィール

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita)

大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。
2011年よりフリーランスとなり、マーケティングリサーチやコンサルテーションを行っている。2015年12月よりMarketingBase運営の株式会社スペースシップ アドバイザーに就任。

 

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