文:大下文輔
CINCの主催で開催されたオンライン展示会「Contents Innovation Conference2020」のレポート第2弾は、動画SNSのC Channelの森川亮社長による、「C Channelとコンテンツマーケティングの今後」と題するセッションの盛りだくさんの内容から抜粋し、ダイジェストしてお届けする。
5年で大きく成長を遂げた動画SNS
C CHANNELは、F1層(20~34歳の女性)を対象ユーザーとし、「女性のための動画のファッション雑誌」というコンセプトで2015年にスタートした。
セルフィー(自撮り)動画を撮って自分で編集し投稿するという機能も作ったが、当時はInstagramもまだ写真のみで、セルフィーはもっぱら写真であった。
C CHANNELの動画フォーマットは、縦型動画に特化していることが特徴だった。若い女性は特別の事情がなければ、スマホを縦にして使う。写真も動画も縦で撮る。
もう一つの特徴は、短尺動画に挑戦したことである。これは若い世代が時間の効率を重視し、短時間のコンテンツを好むことからC CHANNELでは1分に決めた。短尺化は世界的な傾向で、15秒フォーマットに特化したVineが(今はなくなってしまったが)その先駆的存在だった。現在でもTikTokが15秒だ。YouTubeはそれらに比較すると長く、多くは10~20分だが、テレビ番組や映画と比べると短尺と言える。
ところで、これからのデジタルマーケティングは、「SNS×動画×人」という3つの要素が重要であり、その入り口がスマートフォンであることは疑いない。
元々はファッション雑誌という既存メディアの置き換えからC CHANNELをスタートしたが、How To動画を投稿するインフルエンサーなどの人気が高まるようになると、インフルエンサーに関係するイベントの開催、動画コマース、女性向け商品の開発などを行うようになり、集まった視聴者の行動データを分析したり、アジア向けのマーケティングを展開したりするなど、日本最大規模の女性向け動画メディアコミュニティとして成長した。こうしてF1層へのワンストップソリューションの提供が可能となった。
動画コンテンツをFacebook、Instagram、Twitter、YouTube、TikTokなど主要なSNSへ展開する分散型の動画メディアとなっており、フォロワー数は2020年8末時点で国内2,300万以上、また、国内リーチ数は1,170万以上(※)だ。
(※)国内F1層 各SNS述べ数値
C CHANNELの動画コンテンツは、自社で制作するものとインフルエンサーが制作するものがある。その領域は、メイクなど特定のものに限らず、F1層の女性が関心を持つあらゆるカテゴリーにまたがっていることが特徴の一つである。これらをオンラインに配信するだけではなく、リアル店舗の店頭で流すことも行っている。普段C CHANNELで見ている動画が店頭で流れることで、購入率のアップにもつながっている。
エンゲージメントを高めるために、オフラインのイベントも企画実施している。効果は出ていたが、新型コロナウイルスの影響で、現在はオンラインイベントへの切り替えが多くなっている。
ネイティブ広告は、行動を喚起する
ところで、「広告=コンテンツ」の時代であると言われる中にあって、広告はコンテンツよりも魅力的でなければならないと考えている。テレビ局に勤務した経験もあり、TV広告の影響力はよくわかっているが、認知を得るには適するものの購買行動につなげるという部分では課題があるように感じる。
一方的な広告やステルスマーケティングに関して、若い世代は敏感になっている。そこで、重要性を帯びてくるのがネイティブ動画広告である。身近な存在であるインフルエンサーによる、コンテンツにマッチしたネイティブ広告、例えばHow Toなどに紐付けた動画広告コンテンツは、ブランド色の強い広告に比べて、動画広告再生数において約5倍、エンゲージメント数が約10倍のパフォーマンスが得られたというケースも存在している。
ネイティブ広告では、インフルエンサーの存在が大きい。彼女らはいわゆる有名人ではなく、ユーザーに近い存在の人たちである。ユーザーと同じ目線を持ち、親近感があって共感を得やすい彼女たちは、「動画のコツ」や「トレンド」を日々研究し、動画編集や配信に長(た)けている。そうしたインフルエンサーは数多くいる。
C CHANNELでは行動喚起につながる動画の傾向を分析している。行動を喚起しやすい切り口として「How To」「(シチュエーションに応じた)課題解決」「問題提起」「(恋愛を絡めた)ストーリー」「アンケートを活用したトピック」などがあり、そのことでユーザーが「自分事化」しやすくなる。知見として、この商品はどのタレントを使ってどの切り口で動画を作ると効果的かなど、蓄積されたデータからクライアントを支援することが可能になっている。
調査をかけてみると、ユーザーは、ネイティブ広告動画を視聴した結果、「実際に試してみた」人66.5%、ネット検索をかけた人37%、商品を購入した人24%と高い水準で行動を喚起していることがわかる。
人軸消費の時代と、サンプリングの新しいビジネスモデル
C Channelはこれまで、動画広告に投資する顧客に対し、認知・興味関心までのプロセスを中心に動画メディアを展開してきたが、「それは売上につながるのか」という厳しい指摘を受けて、上記のようなファン化、試用、販売などへと実践の範囲を広げている(図1)。
例えば、インフルエンサー独自のレビュー動画をInstagram のStoriesに15秒に編集して流し、そこからEコマースにつなげるという策を採るなどしている。インターネット発表会は、コロナ禍の環境で増えたが、そこでも、チャット中に紹介している商品購入ページへのリンクを貼って買うことができるような仕組みを作る等さまざまなニーズに対応できるようノウハウを貯めている。
また、購買過程の離脱を防ぐためにインタラクティブ動画を実施して成果を上げている。インタラクティブ広告は、動画再生中にタップして気になる商品をピックしておき、そこからカートに進むなどができるものだ。インタラクティブ動画は、再生完了率やカートへのストック、サイト誘導率などが高い。
また、企業に対し、無償でサンプル商品を供出してもらい、それをC CHANNELユーザーにお試し価格で販売するというビジネスを行っている。サンプル品を無償で配ると、「無料の商品目当て」の人に配ることが避けられないが、お試し価格の販売は、動画コンテンツによる説得もあいまって、文字通り商品に興味があって試用してみたいという人が中心となる点で、効果の高い方法だ。
さらに、C Channelグループでは、ブランドの推奨者としてエンゲージメントの高いマイクロインフルエンサー(フォロワー数1万~10万)ナノインフルエンサー(フォロワー数3,000~1万)を採用し、金銭を渡さずに、投稿することを促すLemon Squareというプラットフォームを立ち上げた。これは今、急激に伸びている。
これからはコンテンツ=ECの時代
これまでは、F1をターゲットとしてきたが、ママや、キャリアウーマンを含むF2層向けの動画コンテンツ、マーケティングを展開している。
これからのコンテンツマーケティングについては、コンテンツ=ECの時代になるだろうとみている。消費者がメディアコンテンツを見てクチコミなどを探り、売り場に行く、ということではなく、メディアが商品を開発しそこで売る、ということになる。既にそのようなことが中国や韓国では起こっている。
C Channelはメディアとしてスタートしたが、メディアを活用して、ファンやインフルエンサーを集め、そこから出てきたデータをもとに、既存のブランドとコミュニティをマッチングすることを今進めている。
ここからの発展形としては、コミュニティからの意見をもとに、商品開発をしたいと思う。D2Cの流れにより、小ロットで商品供給ができるようになるだろうから、コスメやファッションの製品をカスタマイズして、サブスクリプションなども含めていいものを安く提供したい(図2)。
さらに、5Gの時代になると、オフラインの融合が実現するだろう。今はまだ、店舗とECが連動していないケースが多いが、店舗の在庫、ECのデータとネットのクチコミなどが連動してトータルな品ぞろえを行ったり、自動販売機がデータ連係によって販売したりすることなどが考えられる。
C Channelは新しい女性向けマーケティングの会社として進化していく。
記事執筆者プロフィール
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株式会社スペースシップ アドバイザー 大下 文輔(Bun Oshita) 大学では知覚心理学を専攻。外資系および国内の広告代理店に18年在籍。メディアプランニング、アカウントプランニング、戦略プランニング、広告効果測定のためのマーケットモデリング、マーケティングリサーチの仕事に従事する。またその間、ゲーム会社にてプロダクトマーケティング、ビジネスアライアンスに携わるとともに、プロジェクトマネージャーとしてISPやネットワークビジネスの立ち上げに参画。 |