アステラス製薬は、2021年4月、医療従事者向けサイト「Astellas Medical Net」(以下、AMN。※医療従事者以外の方は閲覧不可)のリニューアルを実施した。
リニューアルにあたり、アステラス製薬はアドビのプロフェッショナルサービスを採択。
2021年6月30日に行われたウェビナー「【アステラス製薬様登壇】アドビと推進したオウンドメディアリニューアルのポイント」では、このAMNリニューアルプロジェクトのポイントが詳細に紹介された。
ウェビナーは3部構成となっており、
(1)プロジェクトマネジメント概要
(2)導入アーキテクチャと利活用推進
(3)デザインにおける課題と解決策
の各セッションで、アドビの篠原航介氏、山本雄大氏、兼子翔平氏が順に登壇し、アステラス製薬側でプロジェクトマネジメントを行った市原大輔氏がコメントする形式で進められた。
リニューアルプロジェクトでの4つのポイント
アステラス製薬では、デジタルチャネルにおける情報体験の向上を目標として掲げており、ストラテジー構築、システム導入、施策の実行までを一貫してサポートできる体制が組めるという点でアドビが選定された。
AMNリニューアルプロジェクトでポイントとなったのは以下の4点。
(1)システム導入に留まらない戦略・デザイン・プロセスの一貫したPMの必要性
(2)メディカルアフェアーズ部門等の他部門連携による「単なる」プロモーションサイトからの脱却
(3)コンテンツマーケティングの高度化とコンテンツの拡充
(4)グローバルのナレッジのシェアやAdobeプラットフォームの共通言語化
順に見て行こう。
「(1)システム導入に留まらない戦略・デザイン・プロセスの一貫したPMの必要性」について、市原氏は、「大規模なプロジェクトを一貫性とスピード感を維持しながらオンスケジュールで進めていくところが難しかった」と振り返る。
プロジェクトは、戦略策定、UI/UX設計、システム導入の3つのステップで進められたが、戦略策定のステップでは、さまざまな部署を巻き込みながら、それぞれが実行したいカスタマーエクスペリエンスを一つひとつ定義していく部分の難易度が高かった。
戦略策定で決まったことを受けてのUI/UX設計のステップでも、さまざまなステークホルダーの意見を取りまとめながら着地点を明確にしていく必要があった。
続くシステム導入のステップでは、システムでできること、できないことを明確にし、どこまでをシステムで、どこからを人がやるのかを設計するところに難しさがあった。
「(2)メディカルアフェアーズ部門等の他部門連携による「単なる」プロモーションサイトからの脱却」の背景には、昨今、医療従事者が求める情報の多様性がある。
そのような情報提供を行うためには、さまざまな部門の連携が必要不可欠であり、新AMNの運営にはメディカルアフェアーズなど、マーケティング部門以外の部門も関与することになった。
その際には、デジタルでできることを明確にし、部門間で期待値を共有し、目線を合わせることを重視してプロジェクトを進めた。
「(3)コンテンツマーケティングの高度化とコンテンツの拡充」でポイントとなったのは、「コンテンツマップ」を作成した点だった。
コンテンツマップとは、アステラスがすでに掲載しているコンテンツ、競合他社が出しているコンテンツ、医療従事者が潜在的に持っている情報ニーズをリスト化したもので、コンテンツ制作の優先順位や形態(動画など)などについて議論するのに役立った。
「(4)グローバルのナレッジのシェアやAdobeプラットフォームの共通言語」では、これまではリージョンごとに使っているシステムがバラバラだったり、それぞれで蓄積しているデータやナレッジが共有されなかったりという場合も多かった状況が、今後は、グローバルで導入されるAdobeのソリューションを共通言語として、成功事例や分析結果などを共有することで、高速に大規模にPDCAを回せるのではないかと期待を高めている。
導入アーキテクチャと今後の利活用推進
Adobe Experience
Manager を用いてサイトを大幅にリニューアルしたが、その裏側では、アクセスを高度に解析し(Adobe Analytics)、セグメントを管理し(Adobe Audience
Manager)、それらを用いてウェブサイトでのパーソナライズを実行(Adobe Target)、さらにはコンテンツをマーケティングオートメーションを用いて配信していく(Adobe Marketo Engage)というのがソリューションの全体像。
各ソリューションをデータがシームレスに流れることを考慮して設計がなされた。
今後の利活用推進については、導入した後にシステムを使えるメンバーがいないということを避けるために、アステラス製薬のマーケターが人任せではなく自分事化して打ち手を考えていけるようトレーニングを進めているという。
また、オムニチャネルを意識して、オンライン/オフラインの活動をマージしながら、適切な情報を適切なチャネルを通して提供し、カスタマーエクスペリエンスを向上させていけるよう機能強化をしていく方針だ。
好き嫌いや感覚値によるブレを防ぐデザインプロセス
リニューアル前のAMNのデザイン課題としては、デザインが古い印象を持たれてしまう、色が使われすぎていてごちゃごちゃしており一貫性に欠けるなどがあった。
上記の課題を解決し、メッセージの一貫性を作り上げるために、
STEP1:どんなユーザーに、どんな行動をしてもらいたいか?
STEP2:現状は?理想とのGapは?
STEP3:KBO(Key Business Objective)を達成するために、提供すべきUXは?
STEP4:そのUXを実現する機能や画面構成は?
STEP5:Astellasらしさを加えたデザインとは?
というプロセスを取った。
このプロセスを踏んだことで、大規模なプロジェクトではあったが、ステークホルダー間で目線を合わせることができ、感覚や感性に基づく意見に左右されず、意思決定がスムースに進んだという。
色や形など見た目のデザインについても、コンセプトやロゴを設定することから始めることで、プロジェクト内で共通理解を醸成できた。
コンセプトデザインでは、経営理念、VISION、コアメッセージなど、プロジェクトメンバーがすでに共通認識を持っているところ、持ちやすいところから、話を掘り下げた。
その結果、AMN全体コンセプトは「参照される辞書から、活用されるガイドブックへ」、デザインキーワードは、「誠実さ」+「先進感」+「シンプル」と定めた。
続いて、上記のコンセプト、キーワードをもとに、複数のコンセプトデザイン案を作成し、各デザイン案を、コンセプトに対する忠実性、ユーザーの使い勝手、サイト制作者側の使い勝手などの観点から評価をして決定した。
また、複数のWebサイトイメージを並べたイメージボードを用いて、トンマナの方向性を規定していった。
さらに、シンボルとなる新しいロゴを作成したが、これは各コミュニケーションチャネルでの活用に留まらず、プロジェクトメンバーの意識統一、モチベーション向上にも貢献した。
このようにコンセプトやロゴを事前に決めたことで、好き嫌いや感覚値による議論を避けることができ、詳細なデザインを行うフェーズで、デザインフィードバックや画像選定を行う際に、非常にスムースに進めることができたという。
デジタル領域における大規模プロジェクトは、戦略、データ、コンテンツ、クリエイティブ、システムという幅広い領域にまたがり、しかもそれが密接に関連するようになってきている。また、さまざまな部署のメンバーが関わることになるため、各部署の方針や考えを調整しつつ全体を取りまとめる必要も出てくる。
このアステラス製薬の事例では、アドビというパートナー企業の協力もあり各領域に専門性を持つメンバーを集めチームを構成できたこと、データとロジックに基づくディスカッションの積み重ねによってさまざまな部署のコンセンサスを得ながら進めたことがプロジェクト成功の要因となったと言えよう。